2014年2月7日金曜日

佐村河内事件におけるマスコミの責任

全聾の作曲家・佐村河内守氏は自身で作曲をしておらず、新垣隆氏がゴーストライターを務めていたことが明らかになった。

また、16万枚ほどを売り上げたという『HIROSHIMA』は、はじめ『現代典礼』というタイトルで創作されたことも明かされた。
「典礼」はキリスト教の儀式を指す言葉なので、原爆など一切関係ない宗教音楽だったということだろう。
「被爆二世だという佐村河内氏」が「原爆」をテーマに作曲した楽曲である、という付加価値は非常に大きいものだったはずだ。
新垣氏による『HIROSHIMA』がいかに優れた楽曲であったとしても、付加価値を失った評価は急落を避けられない。

最大の問題点は、新垣氏が会見で明かした「佐村河内氏は全聾ではない」という証言だ。
録音した曲を佐村河内氏が耳で聴いてチェックしていたという。
これが事実であれば、佐村河内氏は相当に悪質な詐欺師であると言わざるをえない。


今回、新垣氏は「共犯者としての謝罪」という形で会見を行った。
この際、同様に共犯者として扱われるべき存在がいる。
佐村河内氏の特集番組を制作・放送したマスコミだ。

彼の特集は、wikiによれば『NHKスペシャル』、『金スマ』、『めざましテレビ』で放送されたという。
この内、『NHKスペシャル』、『金スマ』を私は昨日・今日で視聴した。

『金スマ』に関しては、おそらく取材回数自体が少なかったのだろう。
主に自伝の再現VTRと、SMAP稲垣の直接取材という構成だった。
その中には、稲垣が佐村河内氏の背後から、「(これが)HIROSHIMA(の楽譜)ですか?」と話しかけ、一切稲垣の口も手話も見ず、「そうですね」と返答しているシーンが映っている。
返答の後で手話を見ていたが、十中八九聞こえていたのだろう。
しかし、取材の少なさから、彼のトリックを見抜くことができなかったとしても不思議ではない。

問題はNHKだ。
NHKは複数回に渡り、密着した取材を行っている。
作曲の瞬間は「神聖なものだから」という理由で取材拒否をされたとのことで、これについては芸術家特有の拘り、気難しさとして納得できる。
故に、NHKが謝罪した「ゴーストライターを見抜けなかった」ことについては問題ないと考える。
しかし、全聾であるという嘘くらいには気付いて然るべきではなかったのか。
取材に同行した手話通訳者を用意したのが佐村河内氏側だったのかNHK側だったのかは不明だが、仮に後者だった場合、手話通訳者は違和感を覚えなかったのか。
もし、NHKが彼の嘘に気付きつつ見逃していたとすれば、NHKも立派な共犯者だ。
逆に、こんなことにすら全く気付けなかったのだとすれば、NHKの取材能力を疑わずにいられない。


公平だの中立だのを謳うNHKだが、案外、彼らも演出に気を使う。
私が大学生だった時分、ゼミの教授がNHKの番組に特集される機会があった。
その際、「研究してる画が欲しいから、暇なゼミ生は集まって欲しい」と前もって教授から言われていた(これがNHKからの要請なのか、教授の考えだったのかは知らない)。
私は集まらなかったが、後日、放送された番組を見た。
冒頭、いかにも「我々のゼミではこんな実験をしています!」という実験場面の画から放送が始まっていたが、実態とはかなり異なる。
まず、そのゼミでは、各々研究テーマが全く異なるため、「ゼミとしての研究」といったものはない。
週イチで行われるゼミでは、各々の研究テーマについて、調べてきたことや研究の進捗状況などをプレゼンするだけのもの。
それ以外に、実験等でゼミ生同士が集まる機会は一切ない。
また、冒頭の実験場面(教授が実験者となり、ゼミ生が被験者となっていた)で道具が用いられたが、これは教授自身が行う最近の実験では使われないものだった。
多忙で実験機会自体が少なくなっている教授だが、実験の際には外部の研究施設にて、もっと大掛かりな装置を利用しているとのことだった。

結局は、インパクト重視な演出だったのだ。
「いかにも!」な画が欲しかったのだろう。
そのために実態とズレた行動を出演者に求める。
民放ほどにヤラセがなくクリーンなイメージがあるかもしれないNHKだが。
所詮、NHKも同じ穴の狢に過ぎないのだ。

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